2017年8月29日。
人生で初めてバイクで国境を越えて、ロシアからモンゴルへと入った。
すでに寒くて荒涼とした感じのシベリアの大地から、緑の強い草原に羊や馬や牛が溢れる生命豊かで温かい世界へと変わり、心が安らいでいく。
この国も一年の半分以上は寒さ厳しいが、その分短い夏が強烈な輝きを放って見えた。
首都ウランバートルにて日本人の知り合い二人と会って楽しい日々を過ごした後、モンゴル中央部を横断すべく9月5日から西を目指して走り出す。潰れたガソリンスタンドの裏に隠れてキャンプをした時、遠くに見えるゲル(大テント型の伝統的住居)に住む遊牧民の少年が馬でやってきて、テント設営を手伝おうとしてくれたのはいい思い出だ。朝は彼にコーヒーとクッキーをあげて一緒に朝食をとり、住んでいるゲルの中を見せてもらった。
そして。Bayankhongor(バヤホンゴル)という町から西へ向かうと、世界がすっかり変わった。
見渡す限り自然の中で大地に残るピストを探し、方角を確認し、そして時には家畜の足跡を頼りに進む旅となったのだ。
その後走ったアフリカの国々でもワイルドな場所はたくさんあったけど、たとえどんなに荒れていたとしても道は識別できた。しかしモンゴルのこのエリアでは、どっちに進めばいいのかわからない景色が目の前に広がっていて、地図にしっかりと書かれた『A0303』という道は前人が残した痕跡でしかなく、それすら見つけられない場合もあった。
普通の道より何倍も難しく、フカフカの砂やパックリと割れた地面で転んだりしながら時間と体力が削られてタイムアップ、荒野の中で一人ビバークをした。
憧れていた世界は、いざ走ってみると強い不安が待っていた。もしもここで俺が動けなくなってもいつ人が見つけてくれるかわからないし、逆にバイクや金を奪われてしまうかもしれない。見知らぬ国を荷物満載のバイクでたった一人進む、その本質と初めて真剣に向き合った。同時に、このかつてない経験が成長のチャンスだと気持ちが高ぶった。精神的・肉体的な負荷の感覚が強ければ強いほど、それは普段とは違う環境に身を置いていて、より深い旅をしているのだと心を燃やした。
途中に見つけた5軒ほどの小さな集落で、断られ続けながらも粘って粘って最後にガソリンを手に入れたのも、忘れられない思い出だ。僻地の村ゆえにガソリンを入手することは難しく、本当にとても貴重なのだろう。厳重な鍵のかかった倉庫の中の、洗面台の下の扉内にガソリンが入ったペットボトルが隠されていた。
その中から、コーラのペットボトルに入ったやつを3本注いでくれた。
最初は「ここにはガソリンは無い」とかたくなに断られたけど、30分以上粘っていたら(町まで戻れるほどガソリンが残っていないと思ったし、しんどい道を引き返す元気も残っていなかった)この集落の権力者らしき人が出先から帰ってきて、「分けてやれ」的な一言を言ってくれて入手できた、、!
バイクの魅力や感動は、過酷さや危険を乗り越えた先にある。それを改めて、これまでより一段高いレベルで教えてくれたモンゴルの大地、そこを駆け抜けた厳しくも最高の思い出は一生忘れない。
【エピソード_3 _カザフスタンへ続く】